池袋暴走事故の署名活動に参加する前に理解して欲しいこと。「厳罰」が正しいですか?

池袋暴走事故の署名活動に参加する前に理解して欲しいこと。「厳罰」が正しいですか?

東京・池袋の路上で車が暴走し、31歳の母親と3歳の娘が死亡した事故から3ヶ月。

御遺族の男性が、加害者に厳罰を求める署名活動を行うことになりました。

大きなニュースなのでご存知の方が多いとは思いますが、念の為時事通信の記事を引用します。

東京・池袋で4月、乗用車が暴走した事故で、妻の松永真菜さん(31)と娘の莉子ちゃん(3)を失った男性(32)が18日、事故から3カ月を前に東京都内で記者会見した。

男性は、運転していた旧通産省工業技術院の飯塚幸三元院長(88)の厳罰を求める署名活動を始めると明かし、「しかるべき処罰を受けることも再発防止につながる」と協力を呼び掛けた。

現在の心境については、「日々生活する中で心はずっと痛いままだ」と話した。一方で、「いつか天国で『お父さん頑張って生きたよ』と言えるよう、生きていこうと思うようになった」と語った。元院長に対しては「最愛の娘と妻の命が奪われたことをしっかり受け止め、罪を償ってほしい」と訴えた。

会見では、昨年6月に撮影された動画が公開された。父の日の2日前に、莉子ちゃんが似顔絵と手作りのケーキを男性にプレゼントする様子が映っていた。「人間らしい絵が描けるようになったと成長を感じ、涙が出た」と振り返った。

署名活動は秋ごろまでを予定しており、8月3日には莉子ちゃんとよく遊んだ東京都豊島区立南池袋公園で、男性自らが協力を呼び掛ける。インターネット上に開設されたブログからも署名用紙をダウンロードできるという。

事故は4月19日午後に発生。元院長は車両の不具合を主張する一方、アクセルとブレーキを踏み間違えた可能性にも言及しており、警視庁が自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で調べている。

ブログのアドレスはhttps://ameblo.jp/ma-nariko。

まず初めに申し上げておきますが、私には同じ年頃の子供がいます。

御遺族のやりきれない思いは痛いほど伝わりますし、事故発生直後に記者会見を開くという異例の対応に、心底ご立派な方であると感嘆致しました。

動画を公開された今回の記者会見も、ニュースを通じてではありますが、胸を痛めながら拝見しております。

「再発防止」という御遺族の願いに微力ながらお力添えができればとの思いで、今回筆を取らせていただきました。

 

また、あらかじめお伝えしておくと、加害者男性を擁護するわけでは決してございません。

もしも私が同じような立場になったら、加害者を殺しに行くかもしれません。

不適切な表現ですが、同じように思う方は少なくないのではないでしょうか?

だからこそ真摯に記者会見を開き、「厳罰を望む」と明言したこの御遺族の行動は、尊敬に値すると感じています。

 

さて、その上でこの記事でお伝えしたいことは以下の2点です。

・事件の捜査が継続している事実を理解していただきたいこと。

・私たちが本当にすべきことは署名以外にもあること。

 

「元新聞記者」という肩書だけの匿名ブロガーが書くオピニオン記事には、何の価値もないことは承知の上で、どうしてもお伝えしたいことがあるのです。

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池袋暴走事故の捜査は継続しているという事実

今回の事故がネット上で大きな反響を呼んでいるのは、加害者男性が逮捕されずにいるためです。

ほぼ同時期に起きた滋賀県大津市の園児死傷事故では、ハンドルを握っていた中年女性2人が逮捕されました。

一方、池袋の加害者男性が旧通産省工業技術院元院長という経歴を持っていることから、ネット上では「上級国民は何をしても許されるのか!」という警察の捜査方針に対する疑義が噴出していたのはご存知かと思います。

 

まず最初にお伝えしたいのは、「逮捕」というのは一つの捜査手段であって、有罪無罪とは何ら関係がないこと。

いわゆる「任意捜査≒書類送検」と「逮捕」の違いはきちんと理解しておりますでしょうか?

逮捕と書類送検の違い

「逮捕」はすなわち、身柄を拘束する捜査手法です。一般的にはこの段階で報道機関は「容疑者」呼称を付けます。

世間的には「逮捕=有罪」と認識されがちですが、そうではありません。

逮捕後のステップは以下のとおりです。

逮捕後のステップ

①警察は48時間以内に送検するかどうかを決める

②送検されなければ釈放。任意捜査に切り替わる。送検されれば最長20日間の勾留が付く

③検察は勾留期限内(20日以内)に起訴、不起訴の判断をする。不起訴ならそこで事件終結。起訴なら裁判へ

④裁判で有罪、無罪、量刑が決まる

すなわち、④の判決が確定するまでは「有罪」ではありません。

まずここを理解してください。

 

一方「書類送検」は、基本的に身柄を拘束することなく、検察へ事件を送致することです。

書類送検の流れ

①事件発生後、任意で捜査開始

②警察は送検するかどうかを決める。期限はなし

③送検されれば検察は起訴、不起訴の判断をする。不起訴なら事件終結。起訴なら裁判へ。期限はなし。※身柄を拘束しない「在宅起訴」のケースも多い(元KAT-TUN田口など)。起訴されれば「被告」呼称へ

④裁判で有罪、無罪、量刑が決まる

今回の池袋の事故は、現時点では②の段階です。

報道にもある通り、今回の元院長は「自動車運転処罰法違反(過失致死傷)」容疑で書類送検される公算が高いので、間もなく③にフェーズが移るでしょう。

そうすると加害者の呼称は「容疑者」となり、起訴されれば「被告」になります。(厳密には報道機関によってルールは異なる)

なぜ逮捕されないのか?

「なぜ逮捕しないのか」という点ですが、もちろん様々な要因が挙げられます。(上級国民だから!というのはあり得ません)

・逃走、証拠隠滅の恐れなし

・加害者も負傷しており入院が必要

その中でも最も大きな要因は、加害者が高齢なため身柄を拘束すると捜査に支障をきたすという点でしょう。

 

先ほどの「逮捕後のステップ」の赤字分をご覧ください。

一度逮捕してしまうと、警察・検察は勾留期限内に証拠収集と事件送致、起訴不起訴の判断をしなければなりません。

場合によっては「自動車運転処罰法」を適用するのか、より刑罰の重い「危険運転致死傷罪」を適用するのかの判断も必要になります。

交通事故の捜査というのは想像以上に難しいのです。

今回は加害者が高齢であるがゆえ、取り調べにもより時間を要することは容易に想像できます。

したがって、勾留期限の定められている逮捕よりも、任意捜査の方が適切だという警視庁の判断は、私は正解だと考えます。

 

証拠も揃っており、まず間違いなく起訴され、裁判で有罪判決が出されます。

「上級国民だから裁かれない」なんてことはあり得ません。

在宅捜査だとしても、実刑判決が出される可能性は十分にあります。

裁判の争点は量刑になるでしょう。

署名活動は早すぎないか?

で、何が言いたいかというと、現状は②の段階なので署名活動は早すぎるということです。

④まで終わり、あまりにも軽い量刑だった場合に、署名活動をして控訴審、上告審へアピールするという手段はよく取られます。

「世間はこれだけ厳罰を求めているんですよ」という「情状」は、微々たるものとは言え、裁量にも影響を与えるからです。

2006年に福岡県で起きた3児死亡飲酒事故のように、事件をきっかけに法制度を見直すきっかけにもなります。

 

でも今回の池袋の事件は、まだ事件発生から3ヶ月です。警察の捜査も終わっていません。

加害者も認めているのでまずあり得ないことですが、もしも「嫌疑なし」で不起訴終結となった場合、名誉毀損で訴えられてもおかしくありません。(これはあくまで可能性の話で、非現実的です)

仮に検察が「不起訴」と判断した場合には、その判断が正しかったかどうかを再度審査にかける「検察審査会」というものもあります。

したがって私は、御遺族のいたたまれない気持ちには100%共感しながらも、現時点では尚早と考え、署名しないことと致しました。

署名に意味はあるのか?

ネット上では、「そもそも署名活動をしても司法判断に影響は出ないのでは?」という声も上がっています。

これは正直言って正論です。

「三権分立」を則っている日本国憲法下で、独立機関である裁判所の判断が世論に左右されることなどあってはなりませんし、あり得ません。

とても冷たいようですが、現状の法制度で裁かれる以上、何万人の署名を集めようが、量刑に影響は出ないでしょう。

ただし、先ほども述べたように、法制度自体を見直すきっかけには十分なり得ます。

今回の事故をきっかけに、高齢者の免許返納制度を見直す動きは既に出てきています。

御遺族の勇気ある行動の賜物と言えるでしょう。

今回議論の中心となった「交通事故加害者の逮捕or任意捜査」の判断にも、一石を投じることになるかもしれません。

その意味で今回の署名活動が与える影響は至極大きいものだと考えられます。

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池袋暴走事故の署名活動から考える私たちにできること

ここまで書けば、「こいつは被害者や御遺族の痛みを分かっていない」と思われるかもしれません。

「勇気を出して活動している御遺族の行動を批判するなんて人としてどうかしている」というご指摘もあるでしょう。

 

でも私が言いたいのは、「私たちが今やるべきことは署名活動ではない」ということです。

誤解のないように申し上げると、署名活動やそれに参加される方を批判するつもりはサラサラありません。

上述した通り、ネットを中心に議論が巻き起こること自体、再発防止には十分役立っていると思います。

御遺族の方が立ち上がってくださったお陰で、「おじいちゃん、そろそろ免許返納したら?」という行動が実際に起き、事前に防げた事故は一つや二つではないはずです。

行動しなければ意味がない

私が強調したいのはそこ、つまり「行動すること」が私たちには求められているんです。

御遺族が会見で流した動画を見て、「泣ける」「かわいそう」で終わるんではなくて。

「加害者に厳罰を!」と間違った方向の声を上げるんではなくて。

 

これだけ重大な事故があったという事実を絶対に風化させず、胸に刻み、子供たちに伝えていって欲しい。

そして行動に移して欲しいのです。

 

毎日運転する方は、改めて安全運転を心がけて欲しい。

身近に運転する高齢者がいる方は、自主返納の必要性を再度考えて欲しい。

小さな親子連れは、絶対に子供の手を離さないで欲しい。

 

こういう小さなことを一人でも多くの人が意識するだけで、防げる事故は必ずあるはずです。

 

批判を覚悟で言います。

加害者が厳罰を与えられたところで、大切なことを見失っては事故は防げません。

加害者に厳罰を与えられたところで、失われたものは何も返ってきません。

元院長が死刑になれば満足ですか?

それで事故を減らせますか?

 

署名活動に参加することは、御遺族を勇気づけることになるでしょう。

全国から励ましの声が届くのであれば、それはとても意味のあることです。

「御遺族のために少しでも力になりたい」という善意から、「署名」という行動に出るのは素敵なことだと思います。

 

私も御遺族の勇気ある活動自体には心から応援しております。

仮に、判決があまりにも軽いものだとしたら、間違いなく署名活動に全力を尽くすでしょう。

「高齢者の免許返納制度厳格化へ」という目的の署名活動なら、喜んで参加させていただきます。

 

でも、今の段階で「加害者に厳罰を」というのは、気持ちはとても理解できるけれど、矛先の方向が少し違うのかな、と私は思います。(少なくとも捜査中の現段階では)

 

同じくらいの子を持つ親として、御遺族の悔しさが身にしみてわかります。

だからこそ、私は違った方法で再発防止に微力ながら努めてまいります。

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終わりに

最後までお読みいただきありがとうございました。

筆者のKENパパ@KENPaPaSanです。

 

今回の記事は、批判が出ることは重々承知の上で書きました。

「御遺族が読んだらどんな気持ちになるんだ?」という批判があれば、返す言葉もございません。

だからこそ私は記事を公開すべきか、ギリギリまで悩みました。

 

それでも、間違った認識のまま署名活動に参加することだけはしてほしくないと思い、

生意気ながら情報発信させていただくことにしました。

 

・「厳罰化」を求める署名活動をするなら判決後が適切である

・捜査中の現段階で行動するなら、「加害者」の刑罰に矛先を向けるべきではない

・私たちがやるべきことは、事故を風化させず、小さな行動に移すこと

この3点を主張します。

 

きっと御遺族は、私が書いたことなど全て分かった上での行動なんだと思います。

署名を集めたところで、司法への影響がないことはきっと誰かの助言で耳に入っているはずです。

まして失った奥さんと娘さんが帰ってくるわけではないことなど、百も承知の上でしょう。

それでも行動したかった。行動するしかなかった。

どれだけ無念で、悔しくて、いたたまれない思いを抱えられているのかがよくわかります。

 

どのような事情であれ、最愛の人の命を奪った人間を許せるはずもありません。

私なら、たとえ死刑になろうとも、その無念は一生晴れることはないと思います。

 

私は加害者を擁護したいわけではありません。

御遺族の活動を批判するわけでもありません。

 

純粋に、いま私たちがやるべきことを考えた結果、この記事を世に届けることが元事件記者である私の使命だと考えました。

ひいてはそれが御遺族の望む「再発防止」につながると信じています。

二度と痛ましい事故が起きませんように。

2019年7月19日 KENパパ

追伸

今回の署名活動に参加される方は、「東池袋自動車暴走死傷事故 遺族のブログ」からどうぞ。

最後になりますが、改めて亡くなられた方々のご冥福をお祈りします。

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